書評

桑島智輝・写真集『我我』

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本を読み進め5ページ目で涙がこぼれ落ちた。

写真家・桑島智輝が妻である安達祐実を約3年間にわたって撮り溜めた写真集『我我』を手にとっている時のことだった。

写真集『我我』

安達祐実といえばドラマ「家なき子」で子役をやっていたことでよく知られているし、当時テレビでよく見ていた。

その後、歳を重ねながら女優として成長していく彼女を、数多いる芸能人のひとりとして認識していた。そんな、特別なんの思い入れもない彼女の写真集を手にしたのはほんとたまたまだったのだけど。

人はこんなにも美しく撮られることができるのか

結婚記念日、深夜高速の風景。2人でいった初めての海外、そこに置かれていたテレビ。安達祐実がキッチンに立つ後ろ姿。写真館で撮るようにイスに座ってポーズととる安達祐実。

そして、5ページ目。

そこには、今まで何度として見ていたはずの安達祐実のまったく見たことのない表情を見つけることができた。ぼたりと涙が落ちた。

人は人をこんなにも美しく撮ることができるのか。

人は人にこんなにも美しく撮られることができるのか。

そこから続く全部で135枚の写真。それらすべてが今まで見たことのないような表情の彼女を見つけることができる。もう、なんだか涙がとまらんかった。

ふりかえるうすっぺらさ

自分の写真をふりかえった。なんてうすっぺらい写真をおれは撮っているんだ。それは、うすうす自覚しながらも見て見ぬふりをしていた。きれいな写真を撮ることは上手になったけれど、それだけの写真を撮っている。

写真集『我我』で描かれているのは被写体の奥深くに入り込んでいるからこそ撮れる写真だ。人にしっかりと向き合った人間だけが撮れる写真だ。

上手に生きているつもりだった

人と向き合うことがこわかった。ずっとそうだ。真正面からぶつかれば傷つくことだってあるし、自分の思いが相手に伝わらんことなんてザラだ。

誰かと向かいあい傷つくたびに、己に対してふがいなくてやりきれなくなって。だから僕はいつからか人と向き合うことをやめた。

そもそも人に期待しなければ、傷つくことなんてないし、それなりの関係で生きていればとりあえず今日は無事にすごせるし、地球はいつのまにか1周する。

「大人になったんだよ」

傷ついて胸をかきむしっていた昔の自分にむかって、僕はそんなふうに言いわけしてた気がする。

うるせえ、そんなことあるか。

ただただ逃げていただけだ。自分自身に、自分の目の前にいる相手に、向き合うこともなく逃げていただけだ。今日、この写真集に出会ってやっと認めることができたような気がした。

うすっぺらく上手に撮られた写真

人と向き合うことから逃げるように、ここ数年風景写真を撮り続けた。見てもらえる人も増え、これでいいだなんて思ってた。けれど、今ふりかえってみてもよくわかる。

すげえうすっぺらいんだ、おれの写真は。

器用に上手に撮ることはできている、それは人間関係と同じように。なぜなんだろうと思っていたけど、ようやく理由に気づけたような気がする。

なにかを始めることに遅いことなんてない

子どもがはしかにかかって免疫をつけるように、人もたくさんの出会いと別れ、喜び傷つくことで成長していくのだと思う。そんなことからずっと逃げてきた。だけど、もう逃げるのはやめにしよう。そんなふうに思わされた。

大人になってはしかにかかると辛いように、今さら自分自身に向きあうのはきっと辛いんだろうなって思うけど、それでもなにかを始めることに遅いことなんてない。

願わくば、もう少し時を巻き戻して、やりなおしたいあの頃がいくつかあるけど嘆いたってしょうがない。何年後から今日という日に時を巻き戻して戻ってきたんだ。そう考えることにした。

こんな考え自体、子どものはしかみたいなもんで。そんなんもっと早めに経験しておくべきだし言ってること自体はずかしいのだけど。

誰かの心の琴線に触れられる写真を

人の心を揺り動かせるような写真。そんな写真を撮りたいな。

同じ風景でも、同じ人物でも、同じ時間、季節、場所でも。

桑島智輝が切り取った安達祐実の写真は、間違いなくそんな写真だった。

僕にもそんな写真が撮れる日がくるといいな。人に向き合い自分に向き合い、心の奥底に突き刺さるような写真を。

 

 

そう思いながら最後のページを閉じた。

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saizou

Z7とへっぽこのセンスで撮影しています。 写真や登山、キャンプが好きなのでいろんなことを発信していきたいです。

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