書評

BACON ICE CREAMとエモいさま

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Bacon ICECREAM

「俺はエモい写真が撮りたいのだ」

差し込む西日が美しいホテル。旅の途中のぽっかりと空いた時間。ひとまわりも歳の離れた人間が熱っぽく語るのを彼らはうんうんと聞いてくれていた。語るのは僕。こんな僕の戯言に付き合ってくれるなんて、本当に友人に恵まれている。

今までずっと風景写真を撮り続けてきたが、最近になって少し毛色の変わった写真が撮りたいと思うようになった。そう、冒頭で語るようなエモい写真。

なんか、エモい写真というと言葉が安っぽくてヤだナァ…なんて思うが辞書を引くに

エモーショナル emotional

(形動)感情的なさま。情緒的なさま。

と出てくるので、やはり俺が撮りたいのはエモい写真なのだとならざるをえない。

2020年はきっと誰しもが忘れられない1年となったであろう。あらゆる規律が一変してしまった世界。同じ日常が明日も同じようにくるのであろうと能天気に過ごしていたところにまるで冷や水をひっかけられたような。

今年のはじめごろにはそれこそ写真を撮りに行くのもままならないようになってしまって、それまでそれが生活の中心であった僕にとっては生きていく意味さえ失ってしまったような喪失感に包まれていた。

写真が撮れない喪失感、写真がない自分にあと何も残っていないような無力感、写真を通して出会った大好きな人たちに会えないという絶望感。

いろんな負の感情がごった返して、まるで心の中が渋滞を起こしていた。写真をはじめてなければもっと違う人生を歩んでいられたのではないか、なんていう後悔の念もあった。それくらいそれまでの僕は写真にどっぷりの人生を送っていた。

そんな自分を救ってくれたのも、やっぱり写真だった。写真を通して得られた人たちだった。写真を撮るという行為そのものだった。

まだまだ予断を許してはくれないが、それでも僕たちはまた会うことができたし、新しい出会いも経験することができた。

シャッターを押すといつも心は軽くなる。今まで当たり前のように思っていたことも、あらためてすばらしいものなんだと感じられる。

あなたにとって言葉であり、歌であるものが、僕にとっては写真なのだ

誰しもが、自分の中にあるくすぶっている感情を吐露したい時があるんではなかろうか。

文章が上手い人は言葉にし、素敵な声な人は歌にするんだろう。僕にはそんな才能もないし、しゃべるのも得意ではない。それでも自分の中にあるやりきれない思いや感情を吐き出したい。特に2020年は、そんな気持ちが強くなる年だった。そして、僕の傍にはカメラがあった。

エモーショナル、感情的なさま、情緒的なさま。

そんな写真が撮りたいな、と思うようになっていた。

というわけで、冒頭のように、久しぶりに出会った友人にそんな前置きすらせず唐突に語り始めたわけです「俺はエモい写真が撮りたいのだ」うわぁ、めんどくせえ。

こんなめんどくさいウザ絡みに、真面目に対応してくれる彼らはほんといい奴らだ。ナイスガイだ。

「奥山由之って人がエモいよ」と、ナイスガイのひとりが教えてくれる。さっそくでインスタを調べてみる。おお!いいじゃんいいじゃん!

「このPVも作っててめっちゃいいんですよ」ってあるPVを教えてくれる。

 

それがこれ。うわ、なにこれ知ってる。あまりにも良すぎて枕に顔突っ込んで悶えて死んでたやつだ。うわ、このエモい写真撮ってる人、このPVも撮ってたんだ。

うえ。っていうか、これ出てるの小松菜奈じゃん。僕の尊敬する人の欄には最近小松菜奈と書かれているくらい好きなんだけど、このPV見た時はけっこう前だったので気づいてなかった。

さらには最近これまた大好きなカネコアヤノのPVも撮ってたりと、とんとん拍子で点と線がつながっていくので、もはや彼の写真集を買わない理由は無かった。

それがこのBACON ICE CREAMだ。そう、ここまでが前置きなのだ。相変わらず前置きの長えブログだな。

BACON ICE CREAM

というわけで、早速ページを巡る。

僕は芸術に触れたとき、分からないものを分からないと感じることは大事だと思う。

世の中のあらゆる人が絶賛していても、自分が分からないと思うのなら、まずその感想を受け止めればよいのだ。そう思う。他人の意見ではなく、自分の心の囁きに耳をかすべきだ。

そう、なにが言いたいかというと、つまり、あの…、写真集を見てもよく分からなかった…。てへぺろ…。

いろんな人が評価している芸術に触れ、よくわからないという感想を抱いたとき、またこれ大事だと思うのが「それを読み解くための文脈を自分が持っていないのではないか?」と問うこと。

その作品に対して向き合うとき、個人の教養や知識、作品の背景を読み取る感覚、そんなものがあるとまた違った印象を受け取ることができる。

BACON ICE CREAMの著者である奥山氏のPV作品などを見ると「あ、いいな」と思うので、彼の作る作品に対して好みだなというアンテナはあるのだろうから、この写真集を読み解くための文脈が僕にはまだないのだろう。

こう言う時はインターネットだ。いい時代になりましたね。

この写真集の感想なんかを見れば理解を深めるための参考になるかもしれない。

そう思ってBACON ICE CREAMで検索してみると、本書への感想を書いてるブログを見つけた。衝撃を受けた。道を歩いていたら急に穴が広がって落下するような感覚だった。

そこには非常に美しい言葉とリズムと修辞句によって、この作品への感想が綴られていた。

人生は出会いだなと、これまた最近思うわけです。誰かと、なにかと出会うことで感情が細波を立てる。

1冊の写真集がきっかけで、まさかこんなに素敵な文章に出会うことができるなんて。ありがたやありがたや…。

エモーショナル、感情的なさま、情緒的なさま。

エモい写真が撮りたいのなら、感情的に情緒的にならないといけない。自分の感情を揺さぶらない写真が、どうして他人の心を揺さぶることができるだろうか。

僕に奥山由之を教えてくれた友人に会えたのも出会い、奥山由之の写真集「BACON ICE CREAM」を手にしたのも出会い、その感想を探して見つけたステキな文章も出会い。

出会いによって小さな細波が呼応し連鎖し螺旋を描いていく。細波はやがて大きくなり、僕の感情を揺さぶるような波となる。

人づきあいが上手でなく、ひとりでもできるからという理由ではじめた写真だったのに、今ではできるだけたくさんのステキな出会いがあるといいな、なんて考えてるようになった。僕の感情を大きく揺さぶってくれる波を求めて。人生って不思議なものですね。

そんなことを思いながら今日も写真集「BACON ICE CREAM」の1ページをめくる。いまだにちょっとよくわからない。けれど、ゆっくり理解していこうと思うよ、君のこと。

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saizou

Z7とへっぽこのセンスで撮影しています。 写真や登山、キャンプが好きなのでいろんなことを発信していきたいです。

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